あとがき
(2002年5月に発行した同人誌からの転載です)
百合小説――執筆開始当初のこの話をカテゴライズするなら、迷わずそんな風に呼
ぶことができたと思います。
作者自身、自らは決して体験できない「女性同士」の愛欲を夢想しつつ、愛する者
同士が求め合う切なさも合わせ描写していこうと考えていました。副題が示している
ように、禁忌を念頭にしたストーリー展開は埒外に置いて。
しかし、粗い設定で始め、流れに任せて綴ってきたせいもあるのでしょうか。連載
が進むにつれ、当初は淫靡さが漂い、「同性愛のファンタジー」に傾いていた描写は、
次第に二人の気持ちに沿った自然な求め合いに置き換わり、最終的には、外挿的に決
めていた枠組みを越え、「この二人だから」と作者自らも納得する愛欲の交歓に近づ
いていったように思うのです。
そうして、物語が少しずつ現実の世界に近い匂いをにじませるにつれ、当初から少
しは触れていこうと決めていた「セクシュアリティ」の問題――わたし個人にとって
も長らく考えてきた課題でもあった――の表出に割く部分も増えていったように思い
ます。
最終章、そして、今回書き下ろした番外編に到っては、愛欲や恋愛の切なさ以上に、
己のセクシュアリティを確かなものとした二人がどうやって社会で生きていくのか、
そんな視座が大きな部分を占めるまでに作品の方向性が変化していったのです。
作者自ら言うのは口幅ったいのですが、上下巻の本になったこの『私と彼女』を読
み返してみる時、この話は狭義な意味での『百合小説』でなくなってしまったのでは、
と問い直しているところです。
実は、番外編『旅立つ想い』は、もっと長い時間の経過を扱うつもりで書き始めた
話でした。これで、みのりと佳澄の物語には完結の二文字を打とうと思って。
しかし、書き続けるにしたがって重みを増していったテーマは、原稿用紙百枚程度
では扱いきれないことに思い至らざるを得ませんでした。
そして、もっとこの世界に住んでいたいな、と感じる素直な気持ちも兆して……。
そんな訳で、第二部を書くことに決めました。佳澄は大学生に、みのりは専門学校
生に。そして、歩夢くんとの生活、未来の計画、さらにはお互いの両親との関係も含
めて。
もちろん、そんなに堅苦しく書くつもりはありません。大らかな性描写はそのまま
に、近隣の人々との交流、「新しい」家族が社会に開いていく様子も含めて、もう少
しこの二人の行く末を追っていきたいと思います。
公開方法についてはまだ完全に決めていませんが、オンラインでも、オフラインで
もきっちり読めるようにしていくことに変わりはありません。
この二人の未来に関心のある方、もう少し待ってやって下さい。夏から書き始める
予定です。
作者自身、みのりと佳澄に再会できる日を、今から楽しみにしているところなので
す。
(2002.04.30)