第五章 眠れない夜

 「ほんと、いいキッチンだなぁ。スゴク使い易いよ」
 みのりは忙しく菜ばしを動かしながら、テーブルに座って待つ佳
澄に言った。
 銀色に光るシステムキッチンは、フラットな造りになっていて、
キッチン台も充分に広い。コンロも、大中小と三つ揃っていて、一
時に複数の料理をこなす事ができた。
 自宅の煤けたまさに『台所』と比べて、環境だけで料理のやり易
さがこうも違うか、とみのりは思ったばかりだった。
 白いTシャツとジーンズ姿に、佳澄の用意してくれた緑の葉がデ
ザインされたエプロンをつけて、手際良く料理をこなしていく。
 フライパンを返しつつ、湯気の立つ大鍋を覗き込み、小鍋にしょ
うゆを差して味見をする。
「ほんと、これだけのキッチンがあるんだからさ、たまには料理し
ないとダメだよ、スミ」
 一杯になったゴミ袋の中に見つけた、弁当のパック。これじゃあ、
幾ら何でも身体を壊してしまう。料理をしようと提案したのは、み
のりの方からだった。
 『いる時は、ちゃんと作ってくれるよ』――佳澄は言ったけれど、
あんなに溜まったコンビニ弁当の空。佳澄の母親はちゃんと家事を
する人なんだろうか。でも、玄関からキッチンに至るまで、広い家
のどこも綺麗に片付けられて、むしろ上流に位置する申し分のない
家に見える。
 しかし、みのりは感じざるを得なかった。
 どこか空虚で、冷たい空気。自宅では覚えた事のない、背中を過
ぎていく乾いた雰囲気を。
「もうちっとだからな」
 味噌の焦げる匂いが立ち込めると、ガスのスイッチを切った。
 大鍋の方の煮付けは……、うん、いい具合だ。
 額に滲んだ汗を拭った時、さっきから佳澄の声を聞いていなかっ
たことに気付いた。長いこと、料理に集中していた気がした。
 後ろを振り向くと、花柄のクロスがかかった丸テーブルの一隅を
見遣る。
 眦の深い、睫毛の長い瞳が、変わらずそこにあった。銀の刺繍入
りの青いクルーネックシャツを着た、スレンダーな姿。肘を突き、
口の端に微かな笑みを浮かべて、こちらを見つめている。
 視線の淀みのなさに、必要のない言い訳をしたくなってしまう。
「な、何か変か? 時間はかかってないと思うけど」
 佳澄は手の平の上に顎を乗せたまま、首を振った。そして、小さ
な、でも満足そうな響きで言った。
「ううん。違うよ。すっごくいいなぁ〜って思って。のりちゃん、
絶対いいお嫁さんになれるね」
「もう、いきなり何だよ。こんな可愛げのない女が、ヨメも何もな
いだろ」
 もう一つの鍋の蓋を上げながら、少し早口になって言うと、背中
からからかうような感じの声が響いた。
「ウソばっかり。のりちゃんくらい可愛い子、何処にもいないと思
うよ。私なら、すぐに自分のモノにしちゃうな」
「こら。私をモノ扱いするな〜」
 佳澄のクスクス笑いが聞こえた。
 冗談めかしてごまかしたけれど、そんな風に言われると、胸の奥
が締めつけられるような感じがする。
 みのりは気づき始めていた。
 佳澄の直截な言葉は、いつも自分の心を揺り動かす。正直に振る
舞ってきたつもりだったけれど、佳澄の濁りのない気持ちが、今ま
で知らなかった自分を、次々に明らかにしていく。そんな時、どう
していいのかわからなくなる……。
「うわ、おいしそう」
 テーブルの上に丁寧に皿を並べると、直角の位置関係になって椅
子に腰掛けた。
「どう? 八百屋の娘の野菜料理は?」
「言う事なし! 花丸五重丸」
 細い腕が、まっさきに緑に黒が散らされた炒め物に伸びた。
「栄養つくぞ。それなら、苦くないからね」
「うん。おいしい。これ、ゴーヤだよね。全然苦くないよ」
「味噌で和えながら炒めれば、そんなでもないんだよ。それに、も
ったいないくらい顔色のいい奴だったから。ほら、カボチャも美味
いよ」
 頷くと、箸を小皿に伸ばす佳澄。小振りな口を目一杯開いて、目
を細めながら頬張る。その仕草を見ているだけで、自分が食べる事
などどうでも良くなってしまう。
 今度はみのりが片肘をついて、佳澄の食べる様に見入ってしまっ
ていた。
「どしたの、のりちゃん」
 サバの煮付けに箸を伸ばしかけた佳澄が、まだ一箸もつけていな
いみのりの方を向いた。
「……いや、スミ、おいしそうに食べるなぁ、と思って」
 佳澄は、ふふふと笑った。
「当たり前でしょ。のりちゃんの愛妻料理だもん」
「おい、あんたはダンナか」
「うん、座ってるだけ〜」
 本当に、スミは何も隠し立てしない。みのりは、また甘い気持ち
が身体に兆すのを感じながら、料理に箸を伸ばし始めた。

 「大丈夫だよ、誰も帰ってこないって」
 念押しをするように尋ねたみのりに、佳澄は頷いた。時刻はもう、
夜の十時半。気にせず泊れるよ、とは聞いていたものの、これほど
の家に、誰も帰ってこないことが未だにしっくりこなかった。
「ほらほら、入ろう」
 背中を押されて入ったバスルーム。TVのバラエティでさんざん
笑った後に、『ね、一緒にお風呂入ろうよ』と言われた時、どう答
えたものか迷ってしまった。
 でも、ソファの隣で身体を寄せた佳澄に軽くキスされた時、Hな
想像が頭に浮かんで、自然に頷いてしまっていた。
「うわ、広いね」
 裸のみのりの目に入ったのは、ちょっとした宿レベルの大きな浴
槽と、洗い場。大人三人くらいは並んで入る事ができそうに見えた。
「異常に広いでしょ。何か、家族で入れるように、ってこうしたら
しんだけど。まったく意味なしだけどね」
 久しぶりに聞く、平板で冷たい口調。しかしみのりが振り返った
時、既に佳澄の口調は元に戻っていた。
「でも、のりちゃんと入れるから、全然オッケーかな」
 言うと、浴用剤でモスグリーンに染まったステンレスの浴槽に飛
びこんだ。
「スミぃ、子供じゃないんだから。身体流してからって、言われな
かった?」
「どうでもいいの、そんなこと」
 みのりは、くすっと笑うと、青いタイルの上に伏せられた椅子を
取って、シャワーの前に腰掛けた。
 コックを捻ってお湯を出すと、髪の毛を濡らす。洗髪からするの
が、みのりのいつもの順番だった。
「シャンプー、そこの使ってね」
 髪に泡が立ち始めた時、浴槽の縁に腕を組んで顎を乗せた佳澄が、
ため息をついてから呟いた。
「いいなあ、のりちゃん」
 泡立った髪のまま、丸い目を横にして、みのりは答えた。
「何が?」
「だって、すごく綺麗な身体してるから。張りもあるし、健康的だ
し、付くべき所に付いてるし」
「バカ。それは、スミだろ。細いのに、胸は大きいし、腰はあるし、
オトコが見たら、十人中十人がスミのスタイルがいいって言うと思
うよ」
「イジワル……。オトコなんて、どうでもいいのに」
 髪をすすぎながら、そうでもないよ、オトコの視点てのもあるし、
と言いかけて、みのりは言葉を発するのをやめた。
 久しぶりに感じる疑問が兆していた。佳澄は、男との付き合いが
あったのだろうか。
 みのりは心の中で首を振った。そんなこと、別にどうでもいいこ
とじゃないか。今考える必要があると思えない。自然にわかる事だ
し、私がスミを好きなことに変わりはないんだから。
 身体を洗って、入れ替わりで湯船につかった。さっきの会話から
言葉少なになった佳澄が、長い髪を、ゆっくりと洗っている。
 黙っていると、いつもの躍るような感じがすっかり失せて、とて
も物静かな様子に見える。
 学校ではいつもこんな調子だから、誤解されても仕方がない。大
多数にとって、佳澄は未だに清楚で近寄りがたい、『窓際の君』の
ままだった。
 身体を洗い終わった佳澄が、髪の毛をタオルで纏め上げて、湯船
の中に入ってくる。みのりの隣にちょこんと座ると、すんなりとし
た顔の稜線を見せながら、正面に視線を散らした。
「ごめんな、スミ。私、時々無遠慮かな……」
 無言で首を振ると、佳澄は小さな声で言った。
「そんなことない。私がダメなだけ。のりちゃん、私よりずっと大
人だもの。ちょっとしたことで昔の変なこと思い出したりして……。
すぐグラグラしちゃう子供なんだなぁ、って思うんだ」
 みのりは視線を落とすと、浮かんできた沢山の言葉の中から、一
つだけを選び取った。話したい事はいろいろあるけれど、今はその
時ではないと思った。それより、今、何より大事で愛おしいのは、
間違いなく。
「ほら、スミ。笑って。私、スミの笑った顔が一番好きだな」
「うん」
 佳澄は頷くと、みのりの張りのある肩に軽くキスをした。
「もう、出よ。湯あたりしたら、疲れちゃって眠くなるもの。ね?
 まだのりちゃんの事、寝かせるつもりないんだから」
 最後は悪戯っぽく笑い、揃えた二本の指でみのりの頬を突付いた。
安堵と愛しさ、そして別の動悸が混じり合った微妙な感覚と共に、
みのりは胸の中の想いを確めていた。こうして側にいればいるほど、
佳澄に惹かれていく自分を。止めようもない程、恋している自分を。

 みのりの口から出た言葉が、大した意味がないものだとはわかっ
ていた。でも、『男』に象徴される無意識の社会規範が、かつての
悲しい記憶の裏側に潜んでいる事に、佳澄はとうに気付いていた。
時として、人と人の間の想いなど、意味のない常識や世間体、我欲
のためには容易く手折られ、踏みつけにされてしまう。
 でも、みのりはそんな思いの全てを超え、優しくて、強かった。
他の何に依ってでもなく、真っ直ぐに、自分自身を見つめてくれて
いるのがよくわかる。佳澄は、身体の奥が熱くなる位、みのりの気
持ちが嬉しかった。
「スミ、イイって。変に日焼けさえしなきゃいいんだからさ」
「ダメダメ。化粧すれば、絶対にもっと可愛くなるんだから。もっ
たいないよ」
 セミダブルのベッドの置かれた広い部屋。無理矢理鏡の前に座ら
せたのは、みのり自身の魅力に、もっと気づいて欲しかったからで
もあった。
 立膝をして後ろから覗きこむと、二人の顔が大きな楕円形の鏡に
映る。
 長い髪を白いバスタオルで纏め上げた佳澄の横に、眉から目、頬
から口元まで、鮮やかに彩られたみのりの顔。
 最後に、いつもは分けている髪をナチュラルに流した感じにセッ
トすると、全体の印象を確めた。
「ほら、全然違うじゃない。のりちゃん、幾らなんでも、気遣わな
すぎなんだもの」
「う、うん……」
 さっきまでの抵抗が嘘のように、鏡の中の顔を見つめるみのり。
「もうちょっと、チークを入れようか。目は、これくらいがいいと
思うけど」
 頬骨の辺りに、刷毛で淡い紫を散らす。大きな目と、生え際を少
し上向きに整えた眉と相俟って、丸顔というより、少し起伏のある
面長な印象に見える。
「うわ〜、凄い美人。のりちゃん、可愛い〜」
「ば、バカ」
 目を伏せると、カーラーで巻き上げた睫毛が陰影を作って少し扇
情的に見える。佳澄は自然に身体が動き出すのを、もう止めること
ができなかった。
 淡い緑のキャミソールを纏った、自分より一回り大きな身体を後
ろから抱き締めると、首筋の辺りに顔を埋めた。一瞬身体を固くし
たみのりも、両脇に落としていた手を佳澄の腕に添えた。
 そのまま目を閉じ、互いの呼吸だけを聞いている。ブラだけを着
けた胸に、みのりの体温が伝わって、佳澄は抱き締めた手に力を込
めた。
 振り向いた顔。自然に唇と唇が合わさる。
 佳澄はみのりの頭に手を回すと、薄目を開いて、綺麗に整った表
情を見た。闊達さがすっかり影を潜め、可愛くて少し儚げにさえ見
える。閉じたまぶたに薄く塗られた淡いピンク。揺れる睫毛。止め
られない激しい気持ちが湧き上がってきて、強く唇を合わせた。
 自分だけが立ちあがって、スツールに座ったままのみのりの上か
ら覆い被さる格好になって舌を貪る。
 次々に流れ込んでくる唾液に、みのりの喉の奥からくぐもった響
きが漏れた。でも、佳澄は合わせた唇を離さない。そのままみのり
の身体を促すと、後ろから抱きかかえる形で上半身をベッドの上に
もたれさせた。
 止まらない。のりちゃんを、もっと近くに感じたい。感じさせた
い。
 佳澄は、自分の中で弾ける強い想いを、そのままみのりの身体に
ぶつけていった。意識の中にはみのりの身体の柔かさと漏れる吐息
だけが溢れて、他の考えを全て消し去ってしまう。
「スミ、恥ずかしいよ……」
 キャミソールをたくし上げ、剥き出しの背中に舌を這わせた。言
葉とは裏腹に従順に下着を抜き取られたみのりは、そのまま四つん
這いになって腰を突き出している。
 青いショーツ一枚になった張りのある身体。小さなキスをしなが
ら顔を下ろしていくと、形よく張ったお尻の双丘に手を当て、下着
との境目に唇を当てた。
「ダメ……」
 か細い声。けれど、抱えた太腿から廻しさわったそこは、布地の
上からでも湿り気を帯びているのがわかった。徐々に下ろしていく
と、少し足を閉じ気味にして嫌々をする素振り。
「ダメ。のりちゃん、ちゃんと愛してあげるから……」
「う、あ…」
 腰だけが高く上がり、剥き出しになった秘められた場所。甘い香
りが鼻をつき、赤い柔肉が、微かに覗き見える。そして、浅黒い会
陰部を遡ると、密やかに蕾を見せる窄まった場所も露わになってい
た。
 双丘に手を当てると、剥き出しになった濡れて光る内側の花びら
に、唇を当てた。鼻腔を満たすみのりの匂い。両手で愛撫をしなが
ら窄めた舌を濡れた源へと差し込んでいく。柔らかい感触が包み込
み、縦横に舌を動かすと、上半身をべったりと落としたみのりの口
から、言葉にならない声が漏れる。
 凄い、こんなになっちゃって……。
 右手を前に回し、生え際に添って動かしていくと、コリコリとし
た感触を指先が捉えた。痛いくらいに膨れ上がった敏感な核。
「ダメ、触ると、私ィ……」
 舌先が、小さな蠢動を感じた。軽く、うっという叫びが漏れて、
足先が突っ張るのがわかった。
 可愛い。のりちゃん、もう感じちゃたんだ。
 舌を外して後ろから抱き締めると、腰の辺りに頬を寄せる。
 細かい息を吐きながら、上下する白い背中。乱れた髪が化粧した
顔にかかって、白いシーツに埋もれている。
 もっと、もっと感じさせてあげたい。
 そのまま、両手を乳房に回し、佳澄は再度の愛撫に移った。

 鏡を覗きこんだ時から、頭の芯が痺れてしまっていた。化粧は得
意ではなかったし、しても仕方がないと思っていた。
 けれど、佳澄に誘われて、色づいた自分の顔を見た時、みのりは
形容し難い心の揺れを感じて、何を言っていいのかわからなくなっ
てしまった。
 これ、私? 真岡みのり?
 佳澄と並んで映る姿は、到底自分とは思えなかった。丸くて起伏
のない、漫画のようだと思っていた顔は、薄いピンクと紫色に染ま
り、とても小さく見える。額に疎らにかけられたナチュラルレイヤ
ー風にセットした髪と合わせて、何処かの本から借りてきたモデル
の様に見えた。
 だから、佳澄が愛撫を始めた時、まるで自分ではない誰かが抱か
れているようにさえ感じていた。
 最初の小さな波が通り過ぎた後も、何かが胸の中ですっかり変わ
ってしまったような気がして、まだ潮が引ききらないまま、新たな
愛撫に身を任せていた。
 後ろから回された指先が、胸の頂きの周辺をくすぐる様に過ぎて
いく。背中に当てられていた唇が、首筋へ、そして耳元へ。
 そして、もう一方の手が、後ろからお尻の間へと忍びこんでくる。
 耳たぶに、湿った感触。唇に捉えられると、舌が耳朶の中へと侵
入してきた。頂きの周辺をさまよっていた指先が、乳首を唐突に捉
えた。
「あ……」
 小さな声を漏らすと、抱きかかえられて、身体を引き起こされた。
壁に手をつく形になって、背後からの愛撫に身を任せてしまう。
 気持ちよかった。今まで何処かで自分を止めていた堤防が全部壊
れて、このまま佳澄に何もかもを愛して欲しくなる。
 スミ、全部愛して。私の身体全部。どこでもいいから。
「のりちゃん、可愛いよ。気持ちいい?」
 気持ちを察したように、佳澄が耳元で囁いた。心の声が、言葉に
なって弾き出されようとしていた。
「うん。スミ……いいよ、うん」
「ホントに? 大丈夫、もっと気持ちよくなっていいよ。遠慮しな
いで。私、のりちゃんが好きだから」
「うん、愛して、一杯。スミ。気持ち良くして」
 激しく胸が揉み上げられた。指先が、濡れた中心に差し込まれて
くる。一本、二本。そして、ゆっくりと中が掻き回されると、切な
さが込み上げてきて、身体を支えた膝が、ガクガクと震え始めてい
た。
 みのりの息は激しくなり、整えた髪の毛も滲み始めた汗で顔に乱
れついた。しかし、佳澄の愛撫は止まらず、激しさを増していく。
 そのまま滑り落ちると、足を開いたみのりの身体の下へと佳澄の
顔が忍び込んだ。手が不安定な腰を支えると、双丘を揉み解すよう
に愛撫する。
 凄い、格好……。
 ぼんやり考える。でも、もう恥ずかしさは消え去っていた。潜り
込んだ佳澄の舌が届くように、腰を低くして……。
「のりちゃん、気持ちいいんだ」
 息がかかる。そうだよ、スミ。私、スゴク気持ちイイ。このまま、
真っ白になりたい。
 指がまた忍び込んできた。今度はもっと深く、奥まで抉るように。
もう一方の手が、ゆっくりとお尻を撫でている。ああ、ダメ。何に
も考えられない。スミの手。指。二本に増えて、前の方も、横の方
も押されて、ああ、ダメ……。
「ああぁ……」
「いい? のりちゃん。感じてる?」
「うん、凄い。スゴイぃ……。あ、スミ……」
 唇で捉えて欲しかった。でも、そんな事、言えない。
 みのりは身体を逸らすと、手を伸ばす。そして、仰向けになった
佳澄の足の間に、指を忍び込ませた。揃えた指先でその場所を探し
出すと、擦るようにする。
 佳澄が、軽く息を吹きかけるように顔を近づけた。でも、唇は触
れない。内側に入れた二本の指を擦り合わせるように動かしながら、
親指が会陰部を撫でた。
 くすぐったいような感触。溢れ出た潤いを、掬い取り、幾度も塗
りつけるように上下に親指が動いた。窄まった場所の寸前まで辿り、
また戻る。そして、尖り出したクリットに吹き掛けられる、暖かい
吐息。
 引きかけては兆す波に翻弄されながら、みのりは佳澄の中に指を
進めた。
 顔の上に跨りながら、後ろ手に身体を支える少し辛い態勢。もう、
限界が近かった。
 その時、膣の入り口を後ろから押すような快感に変わり始めてい
た会陰部への愛撫が、更に後ろへと伸びた。
 あ、ダメ。
 思う間もなく、唇が限界まで腫れた場所に添えられた。そして、
親指が僅かに奥まった窄まりを押し、微かに中を抉った。二本の指
はそのまま細かい上下の動きを止めず、抱えられたお尻の肉に、強
く抱えた指が食い込んだ時。
「い、イイ。イク、イッちゃうぅ……」
 その後は、言葉にならなかった。甲高い声を上げて、快感の大波
に身を任せた。何度も何度も、身体全体を震わせて、細い声を漏ら
し続ける。そして、佳澄の中に差し込んだ指を滅茶苦茶に動かした
時、小さなうめきと共に、指先が内壁の震えを感じ取っていた。
 そのまま仰向けに崩れ落ち、全てが真っ白に染まったままの意識
を抱えて、目を閉じていた。
 身体を返した佳澄が、口を開けて大きな息を吐き続けるみのりの
背中に寄り添う。背中から腰へ、腰から足先へ、細い指先と手の平
が、ゆっくりと愛撫を繰り返した。
 官能の大波が、穏やかに身体中に散りながら、佳澄の手に引き取
られて行く。みのりは、もう一度大きく息をつくと、目を見開いて
佳澄の方へ寝返りを打った。
「好き、スミ!」
 思い切り首を抱き締めると、額に額をぶつけた。
 解き放たれた気がしていた。身体の奥から感じられた実感が、こ
の恋に身を焦がしても構わない、そう教えてくれているような気が
していた。
 額をつけたまま、上目遣いに見詰め合う。佳澄の茶がかった瞳の
中には、一つの紛れもない。そのまま身体をもっと密着させて、腰
と腰に手を回し合った。乳房同士が攻めぎ合い、柔らかく重なって
暖かさを伝える。
 時計は夜の三時に近づいていた。でも、再び始まった啄ばむよう
なくちづけは、穏やかさから、小さな愛の交歓へと進もうとしてい
る。
 みのりと佳澄の心の中では、終わらない夜が続いていた。
 そして夏休み最後の朝が、薄明と共に訪れるまで、二人の間に甘
い吐息が止まる事はなかった。

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