あとがき

 今、手元に、何枚かのラフなスケッチがあります。
 笑った顔、考え込んだ顔、怒りに我を忘れている顔。
 自分の頭の中だけに描かれていたみのりと佳澄は、具体的な絵に
なり、いろいろな表情を浮かべています。
 「私と彼女」の連載開始から早二年余り。こんな形にまで発展す
るとは、まったく考えていませんでした。
 ネームにしやすいよう、序盤をシナリオに落としながら、小説と
戯曲、漫画の相違点に思いを致し、冬に入る頃には出来上がってく
るだろう「絵」を楽しみに待っている、秋の夜――。

 前作の完結時にも書きましたが、この話を始めた時に決めていた
のは、かなり大雑把な概要だけでした。
「同性同士の心と身体の求め合いを、禁忌と関わりなく、当たり前
のものとして描く」
 後は、みのりと佳澄の性格と、家族や成長などの背景を意識に置
きながら、二〜三章分を一区切りに物語を作ってきました。
 そして、去年のイベント時に追加した番外編「旅立つ想い」、そ
こから構想が広がったこの「同・生・愛」へ。
 始まった時には愛欲を前面にしたジャンル「百合もの」の色合い
が濃い話でしたから、かなり違った場所へ来たような気もしますし、
これが自然の流れであるのでは、と考える部分もあります。

 さて、お読みになった方はお分かりと思いますが、この「第二部」
の主人公は、佳澄です。
 当初は、愛し合い、共に暮らす二人の日々をつらつらと書くつも
りだったのですが、どうも真っ直ぐにそういう感じにはならないな、
と思い結びました。
 みのりの方は、高校時代からあまり委細にこだわらず、落ち着い
た性格をしています。あらかじめ人格がかなり完成している人で、
わたしが憧れてやまないタイプの人でもあります。
 記憶・身近でも何人か思い当たるお名前がありますが、世の中に
はみのりのようにがっちりと現実の生活を下支えしている方々がい
らっしゃいます。
 では、佳澄は?
 いろいろな意味で、整理できない想いを抱えているのだと思いま
す。
 みのりとの関係に疑いを挟む余地は少なくなったとは言え、まだ
半分は庇護の翼の下です。街の様子や暮らしぶりも書きたいけれど、
それだけではどうも済みそうにない……。
 果たして佳澄の成長をしっかりと書き込むことができたのか、読
み返すほどに自信がなくなるのですが、できるだけ真剣にその時々
の想いに取り組んできたつもりです。

 ただし、終盤の物語については反省点があります。
 テーマのこともあって、八〜九章に関しては初期に決めた物語に
ほぼ沿って展開したのですが、やはりぎこちない部分が出てしまい
ました。
 しばらく時間を置いてから、全体的に手を入れたいと思います。

 ジェンダーの問題にも少し触れる話になりましたが、それはあま
り大きな主題ではありません。
 わたしの恋愛ものは、どれもある程度ユートピア小説の色合いを
持っていると思います。娯楽・官能小説がそうじゃなかったらなん
なんだ、と突っ込まれそうですが、現実のこまごまがそれなりに積
み込まれているから、ほのかに切ない想いが兆す――恥を省みず申
し上げるなら、そんな感じに自作を定義付けているところです。
 ただ、共に暮らすことや性について考える、ちょっとしたきっか
けになるのも悪くないな、とは思っています。

 さて、一番書きたかったのはこれから、「第三部」です。
 六章以降を構築している時には、「このまま、ギュッとまとめて
完結させてしまえ」と迷いました。でも、始まりから考えても、無
理にエンドマークを打つのはやめよう、と。
 なんだか呆れ声が聞こえてきそうですが、もともと結末が曖昧な
カナダ・アメリカの生活文学が好きな作者、諦めてお付き合いいた
だけるなら幸いです。
 二人の絆も深まりましたし、あとは具体的な一つ一つを乗り越え、
愛情生活を、ということで……う、書いていて恥ずかしいかも。
 次の章の舞台は決まっています。
 夏の夜、町の祭りの縁日に、浴衣姿のみのりと佳澄、そして間に
は、やんちゃ度を増したあっくん。夏祭りの終り、申し訳程度に上
げられた打ち上げ花火、でも、高校時代の思い出が重なって……。

 いつ頃書くか、今ははっきりとお約束できず申し訳ありません。
 しかし、必ずいつの日か続きをお届けいたします。
 二年以上も付き合ってきたので、もう、普段からそばにいる感覚
ですし、ね。
 コミック版に向けて、より細かく舞台を作り直しているところで
すから、想像が広がって、ふっと、なんて感じかもしれません。
 この二人と、そして、お互いの家族や回りの人達とは、そんな風
に付き合っていくことになりそうです。
(2003.9.30)

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