幕あい

 歩夢は、なんだかいつもと違った様子に気付いていた。
 いつもは行かない場所、面白いおもちゃがいっぱいあるところに
もいたし、あの、いっぱい食べ物が並んだ場所では、長く待たされ
ていたような気がした。
 お家に帰ってからも、のりママも、スミママも、バタバタ、バタ
バタ、台所からテーブルまで、行ったり来たりしている。
 何だか、いつかこんなことがあったような感じもした。それは、
とてもいいことだった、と思う。
 買ってもらったおもちゃは、いっぱい字が書いてある四角い板が
付いている奴で、ひっくり返すと絵があって、ちょっといつものお
もちゃと違うけれど、面白い感じだった。
 おもちゃを買った時に、何かを言われた気がした。それは、やっ
ぱり覚えのある言葉で。
 歩夢がおもちゃから手を離して、向こう側の部屋を覗いた時、テ
ーブルの上に、丸いものが見えた。
 白くて、茶色くて、赤いイチゴが乗っていて……。
「ケーキ!」
 大声を上げて立ち上がった時、のりママの声が聞こえた。
「おいで、あー坊、始めるぞ」
「はいはい、主役登場ね」
 スミママも、ニコニコ笑ってケーキの向こう側にいる。
 そして、電気が消された。
「あ〜、まっくら」
 声を上げると、赤い火が浮かび上がって……。
 知ってる知ってる、ローソクだ。
「いくつかわかるか、一つ、二つ……」
「……みっつ!」
「そうそう、すごいなぁ、あっくん。三歳だよ」
 ああ、甘いんだ、クリーム。すっぱいイチゴ。チョコレート!
「こら、まず、ふぅ!」
 のりママに言われて、歩夢ははっきり思い出した。ケーキを食べ
る時、時々こうやって火を吹き消すことを。
 ふぅ。
 消えない。
 ふぅ!
 やっぱり消えない。
「だめだめ、あっくん。もう少し近寄らないと」
 スミママに言われて、一緒に顔を近づける。そして、のりママも
横に。
 ふぅ!
 ろうそくが消えると、パチパチと手を叩くのりママとスミママに
合わせて、自分もパチパチと拍手をした。
「おめでとう、あー坊。三歳かぁ」
「うん、よかったね、あっくん。ハッピーバースデー。のりちゃん
も、おめでとう、卒業」
「うん、ありがと、スミ。さ、食べよ」
 とても楽しそうに言葉を交わすのりママとスミママ。
 そばにいてくれる人の声を耳に、歩夢は、大きく切り取られたケ
ーキに思いっきりかぶりついた。

扉ページに戻る 前章に戻る 第3部へ