あとがき

 作者が自分の小説のあとがきをいちいち書くと言うのも少し変な話なのですが、これからも各作品完結ごとに執筆時のちょっとした話や、背景などを書いていきたいと思ってます。読んでくれた方と共有する備忘録がわりのエッセイみたいなものと考えて頂いて、興味のある方は覗いていってください。
 以前、雑記に少し書いたのですが、この小説は10年以上前に書いた「時のロマンス」という作品のリメイクです。実はこの「ロマンス」自体がそれよりさらに以前、実質的な処女長編に当たる小説の書き直しで、その作品がまた、中学時代に書いた映画用の脚本を下敷きに時間ものに取り組んだという…。こんな履歴のある作品ですから、サイトを立ち上げるにあたって、最初に書き上げよう、そして、これで最終稿にしよう、と考えて筆を進めてきました。
 前2作を今読み返すと、顔から火が出そうなほど恥ずかしいのですが、どちらにも共通点があります。悲劇だということです。今回、書き始める時に考えたことは、作品の最終的なトーンを前向きなものにしよう、ということでした。小説を書いたことがある人はわかると思うのですが、形だけの悲劇を書くのは割合簡単です。どうしても感情の起伏が激しくなりますし、ドラマも作り易い。それに比べると、生きる道行きの先を思わせるものは、日常性が強くなる傾向があって、共感を維持しながら書き切るのには手間がかかります。
 全て書き終わってみて、今まで書いてきたものとはかなり違った色合いの話になったな、という実感はあります。読んでくれた皆さんは、どんな風に感じてくれたのでしょうか。
 途中、戦時中の日本を描写するシーンがいくつかありますが、それほど深い意図があるわけではありません。ただ、今の社会の底流を形作っている要素の一つにあの時代の未清算がある、と考えることが多いので、ある程度の実感を込めるように努力してみました。実際にあの時代を生きた者ではありませんし、時代考証的に間違った部分もあるかとは思いますが、細かい点についてはご容赦をお願いします。
 ともあれ、これで完結です。おそらくこの話を二度と書くことはないと思いますが、それなりに納得するものが書けたと感じて、少しほっとしています。次は短いものを書いていきたいと思っています。やっぱり、専業の作家でない以上、長いものは書く方も、読む方も少々大変な所がある様です。
 今度長編を書く時は、一気に全部公開といきたいものです。
(2001.02.26)

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