第五章 カノジョと彼女

 も、もうダメ。そんなに激しくされたら、イッちゃうぅ。
 後ろからがっしり腰つかまれて、パッチンパッチンてぶつかる音
が響いて……。
 ピンクの枕が近づいたり、遠ざかったり。
 あう〜、も、もう、肘ついてらんないよ。
 へたりこんだら、背中にぴったりくっついてくる要クンの胸。
 アアン、くすぐったいのと激しいのがぐるぐるぐる……。
 耳たぶ、かまれちゃって、忍び込んできた手で胸がムニュムニュ、
でも、入ったり出たりの勢いはそのまま、でぇ。
「もう限界? イっていいよ、杏奈さん」
 要クンの声もハアハア混じりだ。
 ウン、今、ちょっと力入れて、要クンのもグッてしてあげるから
ぁ。
『お前、締め方上手だよな』
 うぅ、もう、何でこんな時に。
 ダメダメ。余分なこと、ダメだって。今はもう、イっちゃうんだ。
気持ちよく……。
 アア、うん。ぐるぐるにして、真っ白にして。
 目をギュッ。
 アアン、火がつく。すごい勢いで出入りしてるところから、そこ
から。
「あ、イ……」
 くるよ、腰がブルブル……。あ。
「イクイクぅぅ〜」
 火花散ってる。要クンの腕がギュ……、そして、ビクビク……。
 アウ、中で動いてる……。
 また小さい火花がキラキラキラ。
 アアン、気持ち、いい……よかったぁ……。
 フウ。
 …………。
 ……………。
 はああ。
 はうぅ……。
 パサッと背中の後ろに倒れる音と、ちょっと荒い息。
 ああ、結局、ヤッちゃったぁ……。うぅ、アタシって。
 相談だけのつもりだったのになぁ。
 これじゃ、沙瀬美に言われてもしょうがないよ。もう、堅にも言
い訳できない、よね……。これじゃも、一回だけのミステイクじゃ
ないもん、なぁ。
 ああう……。アタシって、ホント、バカで淫乱かも。みんなの言
うとおりかも。
「……杏奈さん?」
 背中からちょっと高くてかすれた声。肩に当たった手がちょっと
冷たくって。
「どうしたの?」
 心配そうな感じ。うん、要クン、優しいなぁ。ああう、やっぱダ
メダメだ。ぶち切れてしゃぶりついちゃったの、アタシだもの。
「……ごめんねぇ」
「杏奈さん……」
 これで、おしまいかなぁ。ああ、自業自得、ってんだよなぁ、こ
ういうの。
 シャワーを浴びたら、もっとはっきりしてきたアタマ。
 考えてみたら、要クンにもサイアクだ。だってさ、沙瀬美にも滅
茶苦茶言われてた感じだし、そうだよ、沙瀬美だって、切れて当然
だし。ああぅ、こないだ学校であれだけ言われて、今日これだし、
堅にも思いっ切りバレて……、ああ、ぶち切れてヤッてる場合じゃ
ないじゃん。しかも、当人相手に。
 ホント、アタシって……。
「逢沢さんに会って話すの、いつに……」
 要クンのやさしくってちっちゃな顔に首を振ると、アタシは服を
着た。
「いいんだ、もう。だってさ、今からじゃホントの言い訳になっち
ゃうじゃん」
 それで、最後の一言を言ったら……胸の奥の方が痛かった……考
えてなかったくらい、すごく。
「もう、会わないね。携帯の番号も、消しとくから。じゃね、要ク
ン」

 「ほい、飲むか? 沙瀬美」
 シャワールームの扉が開いて、腰にタオル一枚のうしろ姿が冷蔵
庫を覗き込むと、ジュースの缶を持ち上げて見せた。
「う、うん……」
 タオルケットを巻いたまま、ベッドの上でぼんやりと部屋の景色
を眺めてた。
 窓際に雑多にかかった服に、フローリングの床には灰皿や空き缶、
マンガが雑多に転がって、ステレオとTVの前だけが妙に綺麗で。
「いらん? 喉乾いたろ?」
 狭いキッチンの入り口に立ったでっかい身体。さっきまでのこと
が、アタマの中でぼんやり……。
 も、もう。
「……お茶缶、ある?」
「これでいいか?」
 ポンと足元に投げ込まれた緑の缶。あ、私のお気にの奴だ。
「こないだそれ、飲んでなかったっけ?」
 がっちりした上半身、短く刈られた髪の毛の下で、目がにっこり。
「……う、うん」
 パチン。
 冷たさがお腹に落ちていくと、何だか切ない感じがする。それで、
アタマの中も回転し始めて……。
 いっぱい、しちゃったな……。
 あんなのも、こんなことも。最後は、結構気持ちよくなっちゃっ
たし……。
 もしかしたら、今まででも一番なくらい――。
 ううん、ブルブル。そんなことない。要との時は、もっと……。
 でも、後ろからグイグイされて、あの、腕で抱え込まれた時……、
痛いくらいだったけど……。
 違う違う……、ああもう!
 ぼんやり見つめた缶の飲み口の向こう、裸の上半身が角のソファ
に腰を下ろした。
「沙瀬美」
 うん……、でも、男の人の身体って、やっぱり違う……。
「沙瀬美ちゃん」
 あ。
「あ、うん……。何?」
 手に持っていたコーヒーの缶をグイッと飲み干すと、太い眉の下、
細い目がちょっと真剣な感じだった。
「あのさ、ものすげぇ勝手なこと言うみたいだけどさ」
「うん」
「まあ、何ていうか、さんざんしちゃった後でさ、身勝手だと思う
なら、ぶん殴るなりなんなり、仕方ないけどさ」
「うん」
「俺と沙瀬美ちゃん、これっきりにしといた方がいいんじゃねぇっ
か、って思うわけさ」
「……うん」
 うん……、そうだよね。あんたの言うとおりだと思う。
 だって、やっぱ、勢いだけだから、こういうのって。
「……あの馬鹿ともさ」
 ちょっと間を空けて、視線を落とし加減にして言った。
「もう、会わんとこうと思うから。……ま、俺なりのけじめっての
かな。やっといてそれはねぇだろっていうかもだけどね」
「……うん、そうだよ……」
「やっぱり?」
 顔を上げて目の焦点を合わせると、軽口混じりに目を瞬く、面長
の顔。
「……堅一さんみたいな奴、最低だもん。女の敵」
「だよなぁ……」
 残ってるのは……、まだ背中にギュッとされた感じ。ああ、やっ
ぱり、アタマと心がぐるぐる、だよ。
 でも、もう。
 だって、もう、いいんだ。
 階段を下りて、三階建てのワンルームマンションが背中になった
時、朝の空気がとっても冷たくて、夏なのに……。
 何だか全部にもやがかかったみたいだった。心の中まで。
 もう、やだ。
 ああ、もう……、もうもうもう!

 ギラギラ照り返してる太陽の光はまるっきり情緒がなくって、本
当、ため息が出るばっかりだった。
 暦ばっかりだ、九月なんて。何で日本の夏休みってこんなに短い
んだろう。
 あ〜あ、でも、あんな夏休みだったら、ガッコ来てた方がまだマ
シかもだけど。
 中庭の噴水が、何だかモニターの中、エンドアの庭園の泉に見え
る。
『愛してくださいますか、アイナ様。この穢れた身体の全て、心の
深き懊悩に至るまで……』
 セイ君、すっかりお仕えモードになっちゃったなぁ……。もう、
全イベント制覇しちゃったし。
 でも、ふぅ……。少しは焼けてれば良かったのに。この腕だって。
 午後イチの授業、なんだったけ。あ〜あ、もう、帰っちゃおうか
なぁ。お腹重いし、たぶん、そろそろ来るころだ。
「お〜い、沙瀬美。何ヘタレてんの。午後授、いくよ」
 あ、峰世か。
「あれ、教室移動、あったけ?」
「なに言ってんだか、選択じゃない、火曜五限は。相当ボケ入って
るね、あんた。やっぱ、ふられボケだわ、マジで」
「う、うるさい!」
 顔を上げてみると、教室にいるのは峰世と私だけ。そうだ、火曜
の午後イチは……、音楽だったっけ。
 でもまあ、音楽ならいいかな。音楽室、冷房効いてるし、机に向
かって悶々してるよりはずっとましだと思う。
 あれ、でも、何か忘れているような気もする。
 音楽……、音楽……。
 あぁ! そうだ!
 とんでもないことに気付いたのは、始業ベルと一緒に音楽室に駆
け込んだその瞬間だった。
 理系と文系、一緒に受ける授業は体育と、この選択科目だけ。で、
音楽は唯一、あの子と……。
 ああ、やっぱり出てきてる。万事適当なくせに、出席だけはマメ
なんだ、杏奈は。
 後ろが少し高くなった教室の隅っこ、私が入っていった瞬間に、
大きくて半円形の目がこっちを見て、すぐに伏せられた。
 ……髪、切ったんだ。
 丸顔にベリーショート、似合わないだって。だいたい、らしくな
いのよ、髪切るなんて。
 でも……、そっか、てことは、ほんとにあの男とあれっきりにな
ったってことかも……。
 教室の後ろ、端っこと端っこ、思いっきり離れているのにどうし
ても気にかかる。
 今日は器楽の合奏。各パートの注意事項を先生がいろいろ言って
いて。
 でも……。
 ああ、なんだか、なんか、しっくりこない。どうしてか、イライ
ラする。
 なんで杏奈、髪なんて切るのよ。そんな思い入れするような奴じ
ゃないでしょ。
 ちらっと見ると、窓際に座った杏奈は、手にもったスペリオを
左右に振ってぼんやりしている。目の焦点が全然合っていない感じ
だ。
『これ、最近のヒットなんだ〜』
 机の下で広げた巾着の中のちっちゃいドーナツ。
 一学期のこの授業の時だった、よね――そうよ、あんたはあんな
調子が似合ってるんだから。
「ほい、沙瀬美」
 誰かの肘が肩にチョンチョン。え?
「あんた、笛でしょ。あっち、あっち」
『では、パートごとに音合わせをしましょう』
 さっき先生が言っていた言葉がぼんやりリフレインして――、前
へ傾斜した教室の真ん中へ歩いていった時。
 毛先だけ茶の入った丸顔が通り過ぎて、目が合って……。
 唇がちょっとだけ何かを言って、目を伏せたままスッと向こうに
行った。
 ……ゴメン?
 そうやって動いた気がする。いっつも冗談ばっか言ってた、もち
っとした唇が。
 ああ、何で?
 もう、イライラする。
 全然らしくないじゃない。何しおらしくしてるのよ。あんただっ
て、私が堅一さんと寝たの、わかってるでしょ?
 もう、やっぱり絶対、イライラする!
 一斉に笛の音が鳴り始めたけれど、もう、止まらなかった。
 二人置いて向こう側に立っている杏奈の横に並ぶと、笛に口をつ
けたままの横顔を睨んで、低い声で、でも、絶対聞こえるように耳
元で一言。
「バカ。バカ女」
 目じりがピクっと。でも、何も言わずに笛を吹いている。
 くそ、そこまでぶるつもり?
「寝技師。そんな慣れない笛吹いてるより、別のあったかい笛吹く
方が似合ってんじゃないの」
 指の動きが止まった。そして、目がグイッと開かれる。
 何よ。言い返せるものなら……。
「……らなんでも、ないんじゃない……。サッチ……」
「何がよ。悪いのはあんたでしょ、杏……」
 うわ、何よ!
 突然頬っぺたに冷たいのは、もしかして……?
「ぺっ! あのねぇ、かわいい子飼うのが趣味なら、繋いどけば!
 この妄想オンナ!」
 いきなり周りみんなに聞こえる大声だった。
「ゲームん中のマンガ男となんかしてっから、捨てられるんだよ、
ド変態!!」
「このぉ……。私はねぇ、ちゃんとわかってやってんのよ。そっち
でしょうが、まんま生でしてんじゃないのよ、万年ツユだく! だ
いたい、あんたこそ牛は牛小屋に繋いどきなさいよ。あんな木偶男、
鼻輪がお似合いだっての!」
 唇を内側に丸め込んで、睨みつける杏奈。あんたとはボキャが違
うのよ。言い返せるもんなら……。
 ガツン。
 い、痛い!
 目の前に握られた手。す、スペリオ、で。こいつ!
「牛のどこが悪いっての? 牛乳も出すんだから! 役立つんだか
ら!」
「バカ! ほんと、バカ! あんた幼稚園児? それは牝牛でしょ
う! あれは役立たずの牡牛。オックスよ、オックス! ま、あん
たには違うミルクが……」
 バッチン!
 目に火花。痛いぃ! 本気で叩いたな、この……。
「何してるの、あなた達は!」
 響いてくる先生の声。でも、止まらない。止まれない。だって、
だって、この子だけには、杏奈だけには負けるわけにいかないんだ
から!
 あとはもう、ぐちゃぐちゃのすったもんだ。服も滅茶苦茶、髪も
ぼさぼさ……。教室の外にほっぽり出されて、生徒指導室へ二人で
呼ばれて、最悪――。
 生徒指導のマルにさんざんイジメられて、廊下でもちょっとバト
ル。でも、全然収まらない。もう、気分がぶっち切れモードで、ど
うしたって、この淫乱お気楽女のアタマをガツンて一発やらないと
気が済まなくて。
 ……そして、夕方。
「言っとくけどさ、アタシの方からもこれっきりで縁切りだかんね。
サッチ」
「わかってるわよ。ケジメだけだから、これは。二人揃ってた方が
分かりがいいでしょ?」
 一言言って窓の外を向いたきりの杏奈を横に、乗り慣れたバスに
揺られて、本当に久しぶりの街並みに……。
 携帯出ない時は、大学の友達と飲んでるとか、どっかドライブ行
ってるとかだよ――だったら、先にこっちに来るしかないもの。
 私の背よりずっと高い鉄の格子扉。暗くなり始めても、格子の向
こうに庭が広がっているのがしっかり見える。
 制服のままの杏奈が、はあ〜、という顔で「庭園」を眺め回した。
そうだろうね、私だって、最初はびっくりしたもの。
 静かに脇の小さな扉を押す――やっぱり、鍵はかかってない。
 杏奈の丸い目が、いいの、って私を見た。
 いいの。黙って行かないと、きっと、言い訳されちゃう。
 封印してたけど……夏の間も……、でも、ちょっと、気がついた。
さっきまで、杏奈に言いたいこと叫びまくってみたら。  そうだ
よ、私、要に何も話してもらってない……。
 芝生の間のくねった小道を抜けて、奥に見えていた屋根がいくつ
もある大きな洋館へ。要の部屋は、裏の離れに……って、二部屋に
トイレもついた立派な「家」なんだけど……。
 鍵を差し込んで、ゆっくり回す。
 狭い廊下の先、奥の部屋から明かりが漏れていて。
 胸がドキン……でも、引っ込みはつかない。唾を飲み込んで……、
「要、いきなりで悪いけど」。心の中で声を作りながら、ドアを静
かに押した。
 そこにあるはずの、パソコンデスクと、スチールのラックと、一
緒に並べた小物や写真と……、そして、大きなベッドと……。
 ベッドと……。
 な、何で?
 何でこんなゴツイ男がここにいるの?
 裸で、しかも4つんばいになって?
 ここ、ホントに、要の部屋……だったよね。だって、間違いなく。
 え……。
 でかい男の下には、タオルケットを巻いた髪の長い裸の女の子…
…って、ちょっと待って。ちょっと待って!
 この男って、もしかして。それに、女の子、じゃないよ、何で!
「お前……」
 面長のちょっと間抜けた顔が、下になった子を呆けたように見下
ろして、口を半開きにしている。
「何だよ、お前! どうして」
 ちょっと待ってよ。いったい、これって。これって……。
「何してるの? 要、それに、堅一さん、あんたも!」
 叫んだ瞬間、二人が同時にベッドからこちらを見た。
 相変わらずのしまりのない顔と、長い髪にうっすら化粧はしてい
るけれど、見間違いようのない小さくて華奢な顔と。
 どうしてここに私がいるのかって、両方の目がまじまじ見開かれ
て――。
「何、どうしたの……」
 後ろに気配が寄ってきた。
「あ、え? け、堅! どうしてぇ?」
 裏返った声。叫ばないでよ、私の方が!
「おまえ、杏奈か? ど、どういうことだよ」
「沙姉! ち、違うんだ」
「もしかして、要クン?」
 声が入り乱れて……もう、わけわかんない!
 何か言おう、何か言わなきゃと思った。でも。
 真っ暗な路地にいつのまにか駆け出してた。それで後は、どこを
走ってるのか、全然わからなくなって――――。

 ずぅっと、ブラウスの背中を撫でてたけど、サッチ、なかなか落
ち着かない。
 でも、わかるなぁ。アタシだってショックだよ。もうホント、何
考えてるんだろ、堅も、要クンも。
「なんか食べる? 良ければ持ってくるけどさ」
 テーブルの前に座ったサッチは、下向いたまま、頭をフルフル。
もう、髪の毛、クシャクシャにしちゃって。
 あ〜あ、何でもう、こんなことになっちゃったんだろ。
 ああぅ……でも、ことの始まりはやっぱ、アタシが要クンとイた
しちゃったことか。はあ、それにしたって……。
 要クン(たぶん)と堅(あのバカヤロ)のベットシーン(うぅぅ
……)がまたぐわんと戻ってきて、サッチがもう、洪水みたいに話
してたことがアタマの中でグルグルグル。
 やっぱ、サッチ、アタシとは違うわ。そんな特別あったなんて、
全然知らんかったもの。ホント、もっといろいろ話しとけば良かっ
たよ。
『要ね、私の気持ち、すごくわかるって言ったんだよ。知ってるで
しょ、バカな親どものこと』
(ゴメン、忘れてた)
『沙瀬美さんと僕って、似てると思うな。最初にそう言ってくれた
んだよ。すっごく嬉しくって。わかる、アンタに?』
(ああぅ、わかってなかった。知ってたら、あんな簡単にしちゃわ
なかったよぉ)
『マジだったんだから。ずっと一緒でもいいかなぁ、って。あんた
と堅一さんみたいに、身体だけのお友達じゃないんだからね』
 それは言い過ぎだって。でも、アタシは、しょうがねぇや、でお
しまいにしちゃったからなぁ……。
「サッチ、元気出しなって」
 まだ、下向いたまま。髪の毛が目にかかって、頬っぺたにまた新
しい涙のあとが。もう、こんなに泣き虫だったんだ、サッチ……。
「ほら、いちお〜さ、こういうのなんて言ったっけ、何とか兄弟?
 えっと、おんなじに入れられた方だから、「棒姉妹」って言うの?
 ははは。ほらほら、だから、痛いのも分けると半分ってことでさ」
 ああぅ、何を言ってるんだ、アタシ。ホント、バカ丸出しじゃん。
くそぉ、やっぱ国語もちゃんとベンキョしとかなきゃダメだ。
 あ、あれ?
 横に並んだサッチが、アタシの肩口に頭をポン。
 うん……、辛いよ、ね。肩をさすって、上からのぞくと、でっぱ
ったおでこにパラパラ落ちてる髪の毛と、閉じた目の縁でまつ毛が
揺れてて……、えっと……。
 あ、あれ?
 今のドッキン、覚えがあるような?
「杏奈……」
 目、閉じたままでちっちゃな声で。
「ゴメン、ねぇ。ホントは、むかついてるでしょ。だって、私さ、
さっきのさっきまで、あんたのこと、死ね、とか言ってたし、実際、
滅茶苦茶ひどいこと、思ってたし……」
「いいって、サッチ。結局さ、アタシが先だったし、やっぱ後は正
当防衛でしょ」
 ホンネ。だって、そんなこと、とっくに忘れてた。
 サッチの顔が斜めになって、肩の上から下のほうに身体が傾いて、
ちょっと揺れて。
「ふふ、もう、杏奈、あんた、もう。ふふふ…」
「な、何? 笑うなよ〜。ひでぇ、またなんか、馬鹿にしてるだろ」
 口は動いてるけど、えっと……、でも、うう、目を閉じたまんま
のサッチが、なんだか。
「してないしてない、全然。ちょっと、感動かも。杏奈ぁ、やっぱ、
あんたとは友達でいたいなぁ……」
 もっと下に顔が落ちて、ムネの上あたり。
 わ、わかっちゃったよ。このドキドキ……。ああぅ、なんなんだ、
アタシ。
「やっぱり、ダメかなぁ。……だよねぇ」
 いや、違うんだって。黙ってるのは、そんなんじゃなくって。
 頭の中がグルグルグル。
 って、サッチが胸のところで上を見て、目を開いて、ああう、視
線が思いっきり合っちゃったよ。
 もう、いいや!
 ――ギュウぅぅ。
 肩に手を回して、思いっきり抱きしめちゃった。で、パラパラ髪
の首筋にチュゥゥ。
「あ、杏奈?」
 耳元でちょっとびっくりした低い声。
 身体離して、へへへ。
「はは、いや、何だかサッチのこと、ぎゅうしたくなっちゃって。
へへへ……」
 間抜けて笑って、ごまかし、ごまかし。どういう馬鹿だよ、アタ
シ。サッチ、マジで落ち込んでるってのに……、あれ?
 あれれれ?
 ほっぺたに濡れてあったかい感じ。
 サッチのすぅっとした顔が近くにあって……。
 すご〜く、長い(く感じる?)沈黙。
 で……。
「……えっと、だよね。あんたにギュウしてもらうのも、ちょっと
気持ち良かったかなぁ、って思ったかも……」
 ボン!
 ああ、もういいや、いいや! だって、さっきのドキドキ、いつ
もと同じだったし。だから。
 ギュウぅぅ。
 肩をギュ。
 背中も腰も、ギュ。
 それで、髪の毛の中に手を入れて、頭も、ギュゥ。
 ちょっとだけ、口元にチュ。唇には触れないくらいで。
 うん、サッチのドキドキ、聞こえてる……。
 はぁぁ……。うん、よかったぁ。
 だんだん静かになってくアタシのドキドキ。サッチの背中、あっ
たかいなぁ。
 ああ、よかったぁ……。
 チュ。
 え?
 チュゥゥ。
 首がギュって引き付けられて、唇があったかくなった。
 さ、サッチ?
 すごく、えっと、ちゃんとしたキス。すぐに舌が入ってきて、見
たら、目がギュッと閉じられてて。
 え、ええと……。
「杏奈ぁ……」
 ため息混じりのサッチの声。じんわりがまたズン、って身体の奥
で……。
 うん……。いっかぁ。サッチがそんなに、ギュ、モードなら。だ
ってさ、わかるもん。
 うん、して、あげるねぇ。
 もう、アタマの中は、いつもの白いチカチカ。もう、何でもして
あげちゃう。
 ウウン。
 ちっちゃな声。
 唇合わせたまま、ブラウスの中に手入れちゃった。
 ああ、サッチの胸って、可愛い。
「あ、杏奈、ダメぇ」
 いいのいいの、ここも、チュ、してあげるね。それで、ずぅっと
下の方も。
 アタシもいつの間にか裸。
 かわいくまあるく生えたところに、キス。うん、知ってる、こん
な匂いだと思った。
 だって、いっつもそばにいたもんね。
 アアン、こんなになっちゃって。苦しそ〜。一番敏感なところ。
 ――あ、そうだ。
 ベッドの下の引出しから、丸くて可愛い奴をば。
「ダメ、だめ。そんな……」
 まわりをブゥ〜ンて、だんだん付け根に近づけて。それで、光っ
てる先を、チュ。
 あ。
 触れ合ってる足が、フルってした。うん、きそうだよね、サッチ。
イって、イって。
「アアン、杏奈、私、私ぃぃ」
 切ない声が、頭の上で響いて、指をちょっとだけ、中に。
 あ、きてる。動いてる……。
 気持ち、いいよぉ! すごくおっきな声で、そして、身体が突っ
張って。
 はあはあ、荒い息。
 ふとももからずぅっと撫でてあげて、さっきまでこねこねしてた
胸に、軽く、チュ。
 ちっちゃなため息が出て、アタシもちょっとだけ、お腹のあたり
がじんわり。
 閉じてたサッチの目が開いて、二人で笑っちゃった。目だけで。
 ふぅ、何だか幸せ気分かなぁ。男とするのと、ちょっと違うや。
 て、えっと……あれれ、しちゃった。オンナ同士で。
 う〜ん、まあ、いいかぁ。サッチ、気持ちよかったみたいだし。
 さて。
「お風呂でも入る? パパとママ、今日はいないし」
「……いいよ」
 裸のまま、膝をかかえて丸まったサッチが、何だかすごく可愛く
見えた。

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