あとがき
今までの連載に一区切りがつき、少しずつ筆も手に馴染んできた
去年の夏、少し試してみたいことが思い浮かんでいました。
当時受けていた仕事も終わり、働き口は深夜のコンビニバイトだ
け。下の子も小学校に上がり、幼稚園の頃に比べれば各段に手がか
からなくなっていました。ここ数年ではもっとも時間がとれる状況
になり、サイトの執筆でも少し冒険をしてみようか、そんな気持ち
になっていたのでしょう。
決めたのは、「ジャンルも語り口も違う物語を、同時に執筆して
みる」ということでした。そして、七月から書き始めたのが、大河
FT『Stories of Five Sacred Land』、青春恋愛もの『抱擁』、
スラップスティックコメディ『Love&Peace!』、そして、性描写も
含めた同性愛小説、『私と彼女 −異・生・愛−』でした。
四つの物語の内、もっとも筋書きを曖昧にして始めたのが、この
話です。キャラクターと舞台設定はある程度詳細に作りましたが、
あとは「切なく求め合う同性同士の愛欲」「禁忌とは関わりなく当
たり前の恋愛として描く」という基本方針だけで、登場人物達の想
いを受け取りながら、物語の進行につれて先を考えていく、そんな
執筆態度で今日まで進めてきました。
気が付けば、季節はもう春。『Stories〜』以外の連載も終わり、
一行目を書き始めてから八ヶ月が過ぎていました。
当初は少し後ろに下がって綴っていた視点も、みのりや佳澄と知
り合うにつれて一人称書きが多くなり、少し淫靡さが漂っていた性
描写も、最終章に到っては、至極健康的で明朗な性欲の謳歌に置き
換わっていったように思います。
自分の作風がどんなものか、というのはわたしのような書き散ら
し型の小説書きにとってとても難しい自己分析なのですが、主人公
達の気持ちの揺れ動きに添いながら、ゆっくりと綴れたという意味
では、これも自分らしいのかな、と考えたりもします。
女の子同士の心と身体の求め合いを綴るのは、書き手としても気
分のいいものでした。途中から、「開く」という視点が入ったせい
で、愛だけを見つめて溺れる傾向が薄らぎ、作品全体としても落ち
ついたトーンになった気がしています。
まあ、愛欲噴出的な展開を求めておられた読者の方には、少し肩
透かしを食らわしたかもしれませんが、その辺りはご寛恕ください。
身近な人達が振る舞う近似値で書いていく傾向が、ますます強まり
つつあるようです。
ところで、みのりと佳澄には、まだ少し、未来の物語が残ってい
ます。
少し長い番外編になるかもしれませんが、五月のコミティアでこ
の話を本にする際、一緒に形にできれば、と思っています。お互い
違った道に進んだ二人が生きていくさまを、純粋な想い合いが世の
中でとっていく形を、できるだけ丁寧に書くつもりです。興味のあ
る方は少し待ってやって下さい。
サイトの方にも、六〜七月くらいにはUPしようと思っています。
それでは、この長い物語にお付き合い下さり、本当にありがとう
ございました。彼女達の想いや生きざまが、少しでも読まれた方の
心に残るなら、作者としてそれ以上の幸いはありません。
当初は全く予期していなかったほど、書き進むにつれて色々な顔
を見せてくれたみのりと佳澄。思い出に残る二人になりました。
(2002.03.08)