第6章 想いを超えて -Octorber,November-

 今でも信じている。あの年の秋から冬に芽生えた心は、確かにわたしたち二人で育んだものだと。そして、もう一度水を与えられ、花を咲かせる日を待っているのだと。


 夏のセーラー服が、再び冬のブレザーに変わった。校庭の木々の色づきに合わせるように、クラスの中で交わされる話題も、試験や大学生活に向けたものが多くなっていった。
 秋を迎えても、レンガ造りの校門の脇には、武史君の姿があった。部の練習曲目は文化祭で歌う『海はなかった』を加えて、時にはすっかり暗くなってしまってから下校する時もあった。それでも、彼はほとんど何処かで待っていてくれた。
 ただ、皆が当たり前に話す話題に触れることはなかった。駅までの道のりで交わされるのは、シーズン終盤を迎えたプロ野球のことや、体育祭や文化祭など、まだ残っている行事のこと、そして、わたしの部活のこと。
『正直な気持ち、よくわからないけれど。』
 なぜわたしはあの日、あんな風に答えてしまったのだろう。でも、わかるよ、と言う事はできなかった。武史君が口を開きかけた家族のこと。わたしにとってあまりに無意識で、存在自体が失われてしまうことなど、想像の範囲外だった。何処かのTVで見た、家族崩壊の問題が頭を掠めたけれど、社会問題として考えるのとはまったく違っていた。
 そして、黙り込んでしまった彼の表情を見た時、何かが指の間から零れ落ちて行くのを感じていた。強引にベッドに押し倒されて、ただ貫かれるだけのセックスで感じていたのも、身体の痛みより、押し寄せてくる心の空白を埋めることのできない悲しさだった。
 ただ重なるだけの身体の繋がり、そして、彼が呟いた言葉。
『俺は、亜矢と一緒に進んでいけないのかな・・・。』
 続く秋の日々、武史君は以前のように、いや、それ以上に優しくわたしとの帰り道を歩んでくれている。でも大きな曲がり道が、すぐに巡り来る春の景色に重なっていた。武史君はこの街に残るだろう。そして、わたしは・・・?
 微笑みながら、過ぎて行く季節を見送っていけばいいのだろうか。そうやって三月までの日々を送っていけば、互いによい『恋人』でいられるような気もした。そして、それ以上の何があると言うのだろう。
「なんて言ったらいいのかな、あんたは凄いと思うよ。わたしは。」
 土曜日の放課後の教室は静かで、窓を背に寄りかかった美佳と、椅子に腰掛けたわたしの他には誰もいなかった。
「こんな時期だしさ、上手にこなしちゃおうとか考えるはずだからね、わたしだったらさ。」
 美佳はショートボブの髪をかき上げると、わたしから視線を逸らして天井を見た。
「そうかな・・・。きっと美佳だって違うと思うよ。大事な人だもの、どんな時だって真剣でいたいと思うんじゃないかな。わたし、少しでも近付いていきたいんだ、武史君に。でも、今度は・・・。」
 美佳は小さくため息をついた。
「・・・あんた達の間柄が全部理解できるわけじゃないしさ、亜矢も何もかもわたしに話したわけじゃないでしょ?だから見当違いなこと言ってるのかもしれない。実際、わたしの経験の範囲外だもの。」
 わたしは小さく頷いた。
「もう、あんたの気持ちって、わたしが知ってる感情とは違ってる気がするんだ。何て言ったらいいのかな・・・。わたしが誰かを『好き』と言ったら、それはやっぱり、わたしがどうしてもその人を好きだっていうことだから。・・・あれ、何言ってんだろ。意味通ってないよね。」
 どんな時でも迷いを感じさせない美佳の瞳が、教室の景色の中をさまよっていた。でも、わたしの心の中では、何かが像を結びつつあった。
 わたしが彼を想う気持ち。それは、どうして始まったのだろう。わたしの『好き』は、彼の何かを選び取って注がれていた感情だったのだろうか?
「・・・ありがとう、美佳。」
 靄が晴れて行く。
「何か、ぜんぜんお礼を言われるような事、言ってない気もするけどね。」
「ううん、すごく助かった。わたしの今の気持ち、間違ってないってわかったから。もっと好きになれると思うんだ。・・・あ、『好き』って言葉じゃ合わないかもしれない。きっと、最初はそこからしか始まらないのかもしれないけれど。・・・ええと、何て言ったらいいのかな・・・」
「いいよ、亜矢。」
 言葉を捜そうとしていたわたしを遮って、美佳は寄り掛かっていた身体を窓から離した。
「わたしに言ってもしょうがないだろ。それに、言葉にできそうなことじゃない気もするしね。」
 そして、背伸びをすると呟いた。
「ったく、わたしも恋愛って奴をしてみたくなっちゃうよ、あんた見てると。やっぱ正直、亜矢は凄いと思う。もう、わたしにわかる場所よりずっと遠くにいる気がするもんね。これも、愛の力って奴? ま、どうしてあんな奴がいいのか、わたしにゃさっぱりわからんけどね。」
 悪戯っぽい表情に反論しかけてから、そうか、と思う。
「・・・でしょう?でも、わたしにはわかっちゃうんだな、これが。」
「へいへい。ホント、恋する乙女には勝てませんな。ああ、あんたはもう『乙女』じゃないか。」
「もう!」
 席から立ち上がったわたしから逃げるように教室の隅へと歩いて行くと、
「さて、わたしは帰るよ。たまには女二人で茶でもシバクかね?」
 カバンを持ち上げた姿に、わたしは頷いた。
「・・・そうね。美佳のことも少しは聞かせてもらわないと。寛史君とのこととかね・・・。」
 今度はわたしが横目遣いに美佳の表情を覗き込んだ。
「わたしが、寛史の何を話すっての。」
「ふーん、聞いてるけどな。寛史君から。」
 美佳の表情が、まったく、という様にしかめられた。
「あ、あいつ・・・。なんでこう口が軽いんだか。黙っとけってあれほど言ったのに・・・。」
「あ、やっぱりそうなんだ。人の事、恋する乙女とか言っといて、自分だってじゃん。」
「・・・あ、亜矢、おまえ・・・。」
 引っ掛けられたことに気付いた美佳が、わたしを睨み付けた。
「ま、恋する乙女同士、仲良く帰ろう?あ、美佳も『乙女』じゃないか。」
「はいはい、あんたには負けた。かえろ、かえろ。」
 美佳とわたしは、土曜日の教室を後にした。
 そして廊下を歩きながら、わたしは一つの決意を胸にしまった。


 その店は、繁華街の外れの小路を少し入った所にあった。小さな居酒屋やバーの看板が並ぶ中に、細い木の扉とキッチンのマークがあって、そこが洋食店であることが辛うじてわかった。
「ごめんください・・・。」
 手を掛けてみると、思ったより軽く感じるドアを引いて、店内に入った。ドアベルがカランと鳴る音に続いて、香ばしいような空気が鼻をついた。
「いらっしゃい。」
 カウンターだけの狭い店内から、男性の太い声が響いた。無造作に置かれた鍋やフライパンの間から、口髭に眼鏡を掛けた角張った顔が覗き出された。
「こんにちは。ここ、『ミラノハウス』さんですよね。」
「そうですよ。どうぞ、女性一人でも大歓迎ですよ。」
 背の高い木椅子を手で示されると、おそるおそる腰掛けた。店内を見回すと、小さなレリーフや、藤の籠に置かれたドライフラワー、綺麗な模様の描かれた皿が、少しオレンジがかった柔らかいライトに照らされて、雑多なようで落ち着いた雰囲気を醸している。
「どうぞ。」
 小さなメニューがカウンター越しに差し出された。見上げると、眼鏡の奥の大きな瞳が、柔和に光っている。
「あの・・・」
 ご主人の顔を見た時から、どうして武史君がこの店に出入りしているか納得できる気がしていた。
「何かな。」
 にっこりと笑った口元が、わたしの背中を押した。
「森島君は、今日ここに寄りますか?」
「・・・もしかして、亜矢さん?付属の制服だから、そうじゃないかとは思ったんだけれど。」
「はい。」
 肯くと、緑のエプロンをしたご主人は、フライパンを手に取った。何か話す前から自分のことを知られてしまっているのは、どこかくすぐったいような気がした。
「今日は木曜日だよね。」
「ええ。」
 後ろを向いてガスに火を入れると、水の入った大きな鍋を温め始めた。
「じゃ、可能性は高いと思うよ。最近、またちょくちょく来るようになってたしね。」
 束ねた髪の後ろ姿が奥に入っていくと、カチャカチャと食器の当たる音が響いてきた。膝の上のカバンを隣の椅子に置いて、もう一度狭い店内を見回した。
「コーヒーは嫌いじゃない?」
 香ばしい匂いに振り向くと、縁のまるい大きなカップから白い湯気が上がっていた。
「は、はい。でも、何か頼まないと・・・。」
 メニューを慌てて開こうとすると、身を乗り出した顔で、左目がウィンクをした。
「よければ、僕の自信メニューを奢るけど。」
「え。で、でも。」
「女子高生がこの店に来るなんて、一年に一度もないんだから。いいでしょ?」
 温和な言葉遣いで勧められると、どうにも断りづらくなってしまった。わたしの無言を同意と受け取ったのか、口髭に不釣り合いな大きな笑顔を作ると、コーヒーカップと入れ替えにメニューを取り上げていってしまった。
 なんか、不思議なお店。それに、不思議なご主人・・・。
 再び後ろを向いて、沸き上がり始めたお湯に塩を入れると、パスタを散らすのが見えた。
「合唱の方は順調?第九を歌うんだってね。」
 言葉を捜していたわたしより先に、取りたてて訊く風でもなく声がした。
「え、ええ。市の交響楽団と一緒に歌うんです。」
「伝統の12月、だってね。亜矢さんのパートは何処?その声だと、アルトかな。」
「外れです。歌う時は結構高いんですよ。これでも。」
 後ろを向いたまま話すご主人の姿を見ていると、武史君は、何を話してここに座っていたのだろうかと自然に考えてしまう。
「ソプラノかあ、じゃあ、『海はなかった』もそうなんだね。」
「え?」
 本当によくここにきているんだ、武史君・・・。
「ほんとに、よく知ってらっしゃるんですね。」
 フライパンにオイルが滴らされると、わたしでもわかるガーリックの独特の香りが充満する。
「・・・武史は、あれで結構しゃべる男だからね。でも、僕の聞いてるのは言葉だけかもしれないよ。」
 低い声だったけれど、わたしの胸にひどく迫る言葉だった。
「言葉だけ、ですか?」
「うん、そう。」
 それ以上は続けず、フライパンの上で手を動かし続ける。わたしはぼんやりとその後ろ姿を眺めながら想いをさまよわせていた。
 あの時、武史君は呟いた。『どうして・・・』。その言葉の向こう側にあるもの、彼の本当に受け止めて欲しかったもの・・・。わたしだから、できること。
「はい、できたよ。」
 ベージュの皿に乗せられたパスタには、パセリの緑と数種類のキノコが散らされて、ガーリックの香りが湯気とともに立ち込める。
「・・・いいんですか。こんな立派な・・。」
「うん。まあ、食べて、食べて。」
 フォークでからめとると、パスタを口に運ぶ。
 あ、おいしい。
 オイルだろうか、ほわっと舌の上で広がる風味に、少しの辛みと塩味が合わさって絶妙な味だった。
「おいしいです。」
「だろ?ミラノハウス特製、キノコのペペロンチーノ。僕の自信メニューなんだよ。」
 そしてにやりと笑うと、
「みんなこれは絶対おいしい、って言うんだよ。作り方は結構微妙なんだけど、そんなことは知らなくっても、やっぱりおいしいでしょ?」
「ご主人さん・・・。」
「マスターでいいよ。武史もそう言ってるしね。」
「ありがとう・・・、マスター。」
 そして、もう一口運びかけた時、狭い入り口でドアのきしむ音がした。
「・・・ちわ。マスター・・・。」
 ドアベルと共に現れた背の高い姿が、店内を見つめたまま硬直して見えた。
「亜矢。」
 どうして、というように眉根が寄せられている。
「来ちゃった。ここで待ってれば会えるかも、って聞いたから。」


 ミラノハウスを出て、夜の街を歩き始めると、武史君はもう一度口を開いてくれた。
 抑揚を押さえて語られた言葉に、自分が何も知らなかったことに愕然としていた。そして、それ以上に彼の過ごしてきた日々を思うと胸の奥が痛んで、涙が出そうになった。
 でも、辛いのはわたしではなくて、武史君の方だ。そう思って、零れそうになる涙を押さえていた。
 11月の夜空は綺麗で、月が大きく輝いていた。それだけに、武史君の一言一言が染みとおるような気がした。
『・・・でももう、俺にはボールを追う理由がわからなくなってたんだ。それどころか、自分が何のために生きているのかも。』
 きっと人には、無償で与えられる何かが必要なのだと思う。もし、両親がわたしを道具くらいにしか考えていなかったら・・・。
 想像することしかできなかった。武史君が野球を辞めて、癒す側でいることをリタイアした瞬間に壊れていった家族。それは、いったいどんな意味があって結びついていたというんだろう。
 自分が生まれてきた意味を否定されたら、人は生きて行くことがとても難しくなるに違いない。
 中央公園の小高い丘まで来た時、わたしは気付いていた。
 武史君が、どれくらいわたしの事を想ってくれていたか。そして、必要としていたのか。それなのに、わたしの『好き』は、なんて勝手な方を向いていたのだろう。
 彼の言葉の全ては、わたしに向いていたんだ。
「わたし、ここにいるよ。」
 今のこの人を愛したい。受け止めていきたい。強く思って口にした言葉だった。
 月明かりの下で抱き締められた彼の腕は、震えていた。そして、いつも何処か醒めたように感じていた瞳に、溢れる涙を見た。その時、胸の中に今まで知ることのなかった深く、強い気持ちが満ちてくるのを感じていた。
 そのまま二人でベッドに入った時も、その気持ちは強くなるばかりだった。彼と身体を合わせられる事に、誇りさえ覚えるほどに。
 武史君の全てを愛してあげたかった。そして、愛されたかった。
 ベッドライトの淡い光の中で、彼のトランクスを下ろすと、さっきまでのキスですっかり硬くなった昂まりが、悠然と姿を現した。愛しささえ感じて唇で先を含むと、張り詰めた感触を舌に受け止めた。
 そそり立った幹に唇を下していくと、手の中で皺の刻まれた袋が、キュッと緊張していくのがわかった。
 自然にそこへ舌を当てる。握り締めた幹がビクッと動くのがわかって嬉しい。袋の重みを受け止めながら少しだけ口で弄ぶと、一番敏感な先の裏側に当てた親指の腹に、ぬるっとした感触があった。
 感じて、武史君。
 両手で昂まりの根元を押え込むと、一気に喉の奥まで飲み込んだ。頬を窄めるようにして、軽く圧力を加える。こうやって深く強く刺激すると、武史君のものが一気に昂まるのはわかっていた。
 今までは、こんな風に深く求めていくのが恥ずかしかった。身体だけになってしまうみたいで。
 でももう、そんな事は考えない。だって、こんなに感じ合っているんだから。
 わたしの腰の奥でも、ゆっくりと溶け出していくものがあった。彼のものを舐めながら感じてしまっている、そんな淫靡な思いまですんなりと心へ流れ出していった。
 彼の手が、わたしの耳元に強く当てられていた。少し苦しさを覚えながら、深く早く出し入れを繰り返す。手を袋にあてがって、柔らかく刺激した瞬間、膨れ上がった剛棒から、激しく精が喉の奥へと爆発した。
 そのまま目を閉じて、痙攣を続ける彼のものを受け止め続ける。喉を鳴らして精を飲み下すと、苦い味とは裏腹に頭の芯と腰の奥に、痺れるような快感が広がって気持ちをかき乱した。
 そっと指で触れてみると、まだ何も刺激していないのに、わたしの泉からは想像以上の滴が溢れ出していた。
 いくらかの愛撫のあと、わたしははっきりと思った。
 彼のが、欲しい。
 そして、もう力を取り戻した彼に手を添えて自分の中に導き入れると、その充足感に声が漏れそうだった。でも、武史君をもっと感じさせてあげたくて、力を抜いた。
 それでも、昂まっていく快感は押さえられない。
 後ろ向きにさせられて、今度は積極的に貫かれると、腰の奥から波が広がり始めているのがわかった。
 胸に手が当てられ、引き起こされると、武史君の手が、後ろから乳房に、そして足の間へと刺激を送り込んでくる。熱い唇が耳元に当たると、貫かれたままの中心が痺れ始めて、もう我慢ができそうになかった。
「も、もうだめ。」
 このまま感じても良かったけれど、今は武史君の顔が見ていたかった。
「ね、抱き締めて・・・。」
 仰向けになって、手を広げた。見つめ返した彼の目の中に、自分が映っている。
 愛してる、武史・・・。
 この瞬間は、絶対に他の誰にも分かち合えない二人だけのものだ。
 抱き締められてもう一度彼が入ってきた時、わたしは自然に告げていた。
「た、けし・・・。好き。ううん、愛してる。誰より・・・。」
「俺もだ、亜矢。」
 激しく腰を動かし、出入りするその接触点から、一気に火が燃え上がった。
 それは、今までよりずっと深い、お腹の奥が震えるような感覚を伴っていた。押さえようとしても自然に沸き上がり、身体全体を支配するような深い官能の波だった。
「もう、一緒に、気持ちよくなろ。」
 耳元の彼の口からも、言葉にならないうめきが漏れる。そして、彼の迸りを受けた瞬間、意識が消えるような感覚が満ちて、自分で何を言っているのかわからなくなった。
 凄く大きな声で叫んだような気もした。ただ、とても長い間、膣の奥が震え続けているのは感じていた。
「・・・こんなに気持ち良くなれるんだね。」
 口を開いたのは、どれくらい経ってからだったんだろう。
 裸のまま、二人で並んで仰向けになっていると、とてもこの人が身近に感じる。手を差し伸べて、彼の方を向くと、まだ厚い胸が荒い息で上下しているのがわかった。
 幼なじみの頃から、ずっと見つめ続けてきたけれど・・・。
「わたし、今の武史くんが一番いい。」
 感じたままを口にしていた。
 そんなわたしを、優しい目で彼は見つめ返す。その視線の意味が、今はよくわかった。
「武史でいいよ。亜矢。」
「うん。」
 うつ伏せになって、広い胸に頭を乗せた。力強い心臓の鼓動が聞こえる。
「武史、愛してるよ。」
 言葉にするのが少し恥ずかしかった。でも、静かに目を閉じた彼の言葉を聞いた時、身体中に幸せの潮が満ち溢れて、怖いくらいだった。
「ありがとう、亜矢。愛してるよ。」
 わたしたちの間に、もう垣根はなくなっていた。後は、手を取り合って前へ進んで行こう。
 そう思って、彼の手にわたしの手を重ねた。そして握り返した五本の指の確かさに、わたしは美しい未来を重ねていた。

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